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仙北市/せつ子さん家の凍み大根

農家/せつ子さん
秋田県・仙北市

「凍み大根」って、ご存知ですか? 東北の冬のなかでも最も寒い時期に、深い雪のなかから掘り出した大根で作る凍み大根は、地面が雪に覆われ、野菜が不足する冬場の北国の保存食として重宝したものだそうです。ただ、凍み大根は作るのに手間がかかるため、今では作る人も少なくなっているといいます。秋田県仙北市、城下町としても知られる角館で農家を営む雲雀さん家のおかあさん、せつ子さんにお話を聞きました。

真冬だからこそ
質の良い凍み大根ができる

せつ子さん 「普通の大根はね、お盆前に種まいて1月には収穫するの。んだけど、何に使うかによって蒔く時期は人によってまちまちだな。たとえば大根のまま売るのと、それをガッコ(秋田弁で“漬け物”の総称)に加工して売るのとでは、大根を収穫する時期も違うべ?

うちは9月10日過ぎに蒔いたかな。2粒ずつ蒔いて、間引きもしながったかな。他の農作業で忙しいから間引きするヒマもねえしな。
今だば種も高ぐってよー、他の人だば『いつもは3~4粒蒔ぐけども、今年は泣く泣く3粒にしたったはー(したんだよなぁ)』って言っでる人もいたなぁ。」

60~70cm降り積もった雪を掘って、土の中に埋まっている大根を掘り出すのは夫・潔さんの担当。かなりの労力がいる。


せつ子さん 
「遅く蒔くとよ、肌理(きめ)が細かい大根になるんだよな。日がどんどん短くなって温度が低い時間が多くなるからかな。畑から抜いて雪かぶせておけば凍らねぇんだども、そのまま放っとくと土から顔だしている部分が凍るんだ。凍るとそこだけ変な水色に変色するんだよ。」

1日分の作業に使う大根の一部。

せつ子さん「雪掘って、作業する1日分の大根掘って洗って皮剥いて、そこさ穴あけて紐っこ通して。これをお父さんと二人で延々とやるわげ。今年が今までで一番仕込みが多くて、息子も「大丈夫だが?」って心配してるがら、「大丈夫だ」って言っでるけど、まだまだ終わらねえのよ。本当は雪降る前に大根掘って、雪の中さ置いておぎたかったんだけど、今年は早く雪降ってしまって思うようにならねがった。」

大根の皮を一本一本手で剥くのはせつ子さんの仕事。潔さんはドリルで大根に紐通し用の穴を開ける。

 

皮を剥き、紐通し穴を開けた大根に紐を通す。穴開けを千枚通しでやっていた頃に比べると段違いで効率が上がったそう。

こうして一本一本、すべて手作業で大根を干す支度をする。

ようやく、凍み大根の下ごしらえが完成。ここから3ヶ月かけて大根を凍らせながら干す作業に入る。

復活させるきっかけは、
おじいちゃんの言葉だった

せつ子さん 「外さつるした大根が夜に凍って、昼にあったかくなって溶けでポタポタ水が滴って、それを毎日毎日、1ヶ月ぐれえ繰り返すんだ。

外干しの様子。隣とくっついてしまうとそこが赤くなって商品にならないので、一本一本丁寧に間隔を調整する。

外干しでは大根は夜~朝にかけて凍り、日中とける。凍って、溶けて、ポタポタと大根の水分が抜けるのを繰り返すうち、瑞々しかった大根は次第にスポンジ状になっていく。

1月のビニールハウス内に、ずらりと並んだ凍み大根。


せつ子さん 
「1~2月に外さ大根干したあと、3月に入って大根の外側がかさかさになってきたら今度は小屋の上さ移動して、さらに1ヶ月ぐらい干すの。そうしねえと中まで乾かないからよ。温度が上がらないと、きちんと乾かねえんだ。そこからさらに干して、4月の下旬、花見のシーズンあたりにようやく出荷になる。
他で凍み大根作っでるところは、輪切りにするか縦半分に切って干してるところが多いな。」

大根の外側がカサカサしてきたら小屋に移動してさらに1ヶ月ほど干す。すべて自然乾燥で仕上げるのが雲雀家のこだわり。

完成までもう一息。

凍み大根を持ったせつ子さん。

外干しが終わった大根(左)と小屋で内干しにし、完成した凍み大根(右)。だいだい2/3ぐらいの大きさになるそう。

せつ子さん 「うちはずっと農家で、お父さんは7代目。手間でやめてたんだけども、凍み大根作りを復活させて、今年で3年目だな。

復活させようと思ったきっかけは、うちのおじいちゃんが言ってた『(凍み大根があると)水要らねっけ』っていう言葉を思い出したから。今はどんな季節でも食べ物が手に入るようになったけど、昔はお米の田植えの時期まで食べる野菜がなかったもんだから、凍み大根は保存食として必要だったんだ。それで、凍み大根の煮物を冷やして持って行って、田植えの合間の昼ごはんで食べたわけ。干してできたスポンジみたいな部分に出汁がぎゅーっと入って、口さ入れると水があふれ出してくるのよ。それぐらい水分含んでるんだよな。干すと栄養もぎゅっと詰まるしよ。」

せつ子さんのおじいさんが好きだったという凍み大根の煮物。煮干し・昆布・干し椎茸でとった出汁に醤油を入れてコトコト煮る。「冷蔵庫で冷やしてっから夏に食べると最高だよ。」


せつ子さん 
「ここいらへんの人も、昔はみーんな作ってたもんだ。自分ち用なもんだから5~6本一気に紐さ通して、屋根下に下げてたもんだっけ。
昔に比べて天気や温度も変わってきたし、舌も変わってきたから食べる人が少なくなって、ほとんど作らねぐなってしまった。だけども私は食べ物に対してすごく気をつかっているほうだから、やっぱり栄養のことを考えると復活させたほうがいいかなって。そうなると自然に合わせて仕込みもしたいしな。

凍み大根の定番といえば、身欠きニシンと一緒に作る煮物だな。ニシンの出汁がしもって(染みて)おいしいんだ。凍み大根はいったん水で戻してから包丁でザクザク切ると切りやすいよ。」

ほどよい大きさに切った身欠きニシンと斜め切りにした凍み大根、しらたき、にんじん、椎茸などを入れてコトコト煮る。

凍み大根と身欠きニシンの煮物の完成。

せつ子さん「私は代々続く農家の4人兄弟の長女だったから、昔から農作業を手伝わされた。事務仕事は自分に向かないがら、農家に嫁ごうと思ったったのよ。結婚の条件は『出稼ぎNG』『仕事のリーダーシップを旦那さんがとること』の2つ。冬にほとんどの農家が出稼ぎに行っていた時代だったから、『出稼ぎNG』てば驚かれたっけ。23歳のとき、その条件を飲んでくれた今の旦那さんと結婚したの。」

厄払いの寄り合いを終えた夫の潔さんと。結婚してから何十年も一緒だけどケンカは一度もしたことがないそう。

せつ子さん 「料理好きなのは、実家のおばあさんの影響だな。なんでも作るおばあさんを見よう見まねで、ここまでやってきた。信条は『何ごとも続けること』。うまくいってもいかなくても続けることで見えてくるものがあるものな」

凍み大根のシンプルな煮物、凍み大根と身欠きニシンの煮物に加え、凍み大根の味噌汁、在来種の「天甲あずき」を使った赤飯の食卓。

1月のせつ子さんちの畑の冬景色。

写真・構成・文=高橋 希
編集=三谷 葵(2015年取材)
this article from yukariRo

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yukariRoは、漢字にすると「縁路」。ご縁でつながった人たちに取材し、当たり前すぎて「ふつう」のワケを調べ、その土地ならではのおもしろさを追うリトルプレスです。その土地らしい理由、人の性格、クセや習慣、自然、歴史、ほんの偶然……。何が出てくるかはわからないけど、出てくる何かがおもしろい。そういうおもしろさを求めて、自分たちの住んでいる町を取材しています。

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WRITER / EDITOR
三谷 葵

1981年長野県生まれ。編集者・ライター。中央大学大学院総合政策研究科修了。新潮社「考える人」アノニマ・スタジオを経て、2013年3月より秋田県在住。株式会社See Visionsで編集者・ライターとして活動するかたわら、リトルプレス「yukariRo」をカメラマンの高橋希と二人で立ち上げる。一度ハマるとしつこいタイプ。

PHOTOGRAPHER
高橋 希

1974年秋田県生まれ。明治大学文学部在学中、音楽冊子『SPYS』の制作にかかわることで写真に興味を持つ。卒業後、写真家・河村悦生氏に師事し独立。フリーランスのカメラマンとして活動していたが、2013年4月に秋田へ戻る。リトルプレス「yukariRo」のほか、アートイベント「オジフェス」を4回実施。“ないものは作る”がモットーの猪突猛進型。
https://ozimoncamera.tumblr.com/

SPOT.
あきた田沢湖芸術村
秋田県仙北市

劇団わらび座のオリジナルミュージカルを上演するわらび劇場を中心に、人と文化の出会いと交流の場として、芸術・温泉・工芸・郷土料理などを丸ごと満喫できるエンターテインメントリゾート施設です。劇場では毎日のようにミュージカルが上演されるほか、地ビールを楽しめるレストランや温泉施設「ゆぽぽ」などがあり、近くの田沢湖や角館とあわせて1日観光を楽しむことができます。

 

PRODUCT.
田沢湖ビール
秋田県仙北市

田沢湖ビールは、秋田県第一号の地ビールとして、1997年に誕生しました。酵母を濾過しない「無濾過」のため、個性豊かな香りや濃厚なコクが楽しめます。仕込み水には和賀山塊の清冽な伏流水を、モルトはドイツ産の上質なモルトや自社製造の秋田県産モルトを使用。ビールの醸造に不可欠なホップは、世界最高品質の「ザーツザーツ」が使用されています。