LIVE + RALLY PARK.(ライブラリーパーク)

岩手県紫波町/新しい風がふいた

廣田酒造店 杜氏/小野 裕美
明治36年から続く廣田酒造店に、盛岡での酒蔵勤務を経て平成15年に入社した小野裕美さん。翌年、女性初の南部杜氏として酒造りの指揮をとる。実家は味噌、醤油の醸造元であり、幼少から発酵や醸造を身近に感じる環境で育った。


育った風景と照らし合わせる

大学生の頃から日本酒が好きでした。大学は東京農業大学の醸造学科に入っていて、同じ学科には酒蔵の息子さんとかお嬢さんとかもいました。醸造学科ということもあり、卒業した先輩からおいしいお酒をいただくことも多かったので、日本酒をよく飲む環境ではあったと思います。それもいいお酒を。みんなからよくおすそわけしてもらっていました。本当に周りの友達や先輩のおかげでおいしい日本酒を知ることができていましたね。

その頃、私の在籍していた農大の醸造学科と仙台の酒蔵とで「大学生の大吟醸」というお酒を造る企画があり、参加をしました。学生が交代しながら酒蔵に泊まり込みで一本のお酒を造っていくという企画だったのですが、酒蔵での暮らし方が、私の実家が味噌と醤油の醸造をしていたこともあって、とても懐かしい雰囲気を感じました。

明治36年から続く廣田酒造店杜氏の小野裕美さん。女性初の南部杜氏として酒造りの指揮をとる

今は離れてしまったのですが、私が小さい時は家と蔵とが隣り合っていて、頻繁に蔵で職人さんたちに遊んでもらったり、休憩所で一緒にお茶を飲んだり、幼い頃から蔵に馴染みがありました。

味噌、醤油とお酒は違いますが、蔵の人の雰囲気が似ていたのだと思います。蔵で働く人たちがいて、そこに自分がいて、という景色が。自分の育った環境と似た風景もお酒、酒造りに惹き込まれた理由のひとつでした。

その企画に参加したことがきっかけで、卒業したあとは盛岡の酒蔵に就職しました。酒造メーカーで酒を造る仕事をしたいと思っていたのですが、酒造りの仕事(杜氏集団)はもともと農家の農閑期の出稼ぎの仕事だったので季節限定の雇用のところが多いのです。冬場は蔵で酒造りをして、夏場は農家の仕事をするいう方がほとんどなんです。そんな中、蔵人を年間雇用してくれる蔵が盛岡にあり、そこに就職をしました。

働いてみて、好きな仕事だったこともあり、やりがいをすごく感じました。こういうお酒が造りたい!と思ってそれを造るためにどうしようって考えたり、そこにたどり着くためにいろいろ試してみて「これはいいな」って思うものが造れるとすごい楽しいですね。あとは、ちょっと失敗かなと思ってもそこから立ち直らせられたときとかは特にうれしいです。日本酒の場合はいろんなところで手をかけられるので、ある程度のところは修正ができます。なので自分が手をかけたらかけた分だけ大切なお酒になっていく。そういうところが楽しいなって感じています。

紫波町の酒蔵に来たきっかけ
盛岡の酒蔵で6、7年働いて酒造りの楽しみが分かってきた頃に、廣田酒造店を見学させてもらいました。

最初に働いていた蔵は規模が大きくて、程よく機械化もされていたので、蔵の中も、麹を造る人、醪(もろみ)を見る人というような役割分担がされていました。それぞれ担当があったので、それ以外のところは自分の仕事が終わったら手伝いに行くくらいしかできなかったんです。

廣田酒造店は人数が少ないので、ひとりひとりがすべての作業に関わっていました。酒造りの流れすべてに自分が関わることで、勉強できることが多いのではないかと感じて廣田酒造店に転職したことが、紫波町に来たきっかけです。

紫波に来てから感じることは、やはり水がおいしいことかなと思います。ここで搾った新酒は硬くないんです。新酒のギシギシしたところがなくて、口当たりが優しい。新酒のフレッシュなところがあって、でも、何も角々しいところがなくてスッと入っていく。休憩にコーヒーやお茶を飲んでも、家で飲むお茶と違って優しさがある。水が優しいからですよね。

ここでの働き方もとてもいいなと思っています。蔵元がちゃんと従業員の話を聞いてくれる。だから、自分の考えをきちんと話せて、様々なことにチャレンジをさせてもらえます。やってみればいいんじゃない…って。蔵元の懐の深さを感じます。

また、企業じゃなくて家業としてやっているので、子育てとか家庭的な面を酒蔵のみんながサポートしてくれるのはこの蔵ならではだと思います。

私はここにきてから2人目、3人目の子どもを産んでいるのですが、どちらの子も産まれて1ヶ月後くらいに「連れてきていいから働いてくれないか」って蔵元から言われて、それだったらと職場にまだ生まれたばかりの子を連れていっていました。普通だったら職場に生まれたばかりの子を連れてくるなんて考えられない。でも赤ちゃんを連れてきて、蔵元のお母さんが赤ちゃんを見てくれて、私が仕事をして、のようなことを3、4ヶ月くらいしていました。それは廣田酒造店だからやれたことだなと感じます。

酒蔵によく来ていたこともあって、うちの子どもたちも蔵に来ると「おくさーん」って言って奥さんを探しに行ったり、自分のおばあちゃんのように思っているのです。奥さんも孫のように接してくれるし。

子どもたちも大きくなってきて、手伝いをすると言って休みの日に来て、仕込みを手伝ったり、洗い物をしたり、シール貼りをしたり、ハンコをついたり。そんな中で、発酵に興味を持ってくれたのか、冬休みの自由研究で麹のことを調べたりしていました。

蔵の方たちが我が子のように接してくれるので子どもたちも喜んで蔵に来ます。そうやってサポートしてもらえるので仕事と子育ての両立ができているのだと思います。それが自分だけでなくて子どもたちにも良い経験になっています。

なにより子どもたちが酒蔵で過ごすことで、自分が幼い頃に実家で過ごしていた環境に似た場所で育てられることが親として嬉しいなと思います。

this article from ツギヒト

LOCAL MEDIA
ツギヒト tsugi-hito

ツギヒトとは「継(ツギ)人(ヒト)」。 「伝統を引き継ぎ、新しい時代が作られるとき、淀みない流れの中で生まれ、時代のバトンを受け取りつないでいく人々」をテーマに、岩手県紫波町で発行されたフリーペーパー。 https://tsugihito.net

SPOT.
廣田酒造店

岩手県紫波郡紫波町宮手字泉屋敷2-4 TEL: 019-673-7706 店舗営業時間:9:00~16:00 (蔵見学無料 ※要予約) http://hirotashuzoten.net

PRODUCT.
廣喜

廣田酒造店では現五代目蔵元廣田英俊のもと、平成29醸造年度より、廣喜ブランドは杜氏小野裕美をはじめ、総力を持って『米の旨み』を追求して、全量酸基醴酛での醸造に取り組みます。水分(みずわけ)神社に湧き出る名水とうたわれる、やわらかな美味なる水と岩手の大地で育てられた米を使い仕込まれる酸基醴酛の廣喜の日本酒。最終的に目指すのは、「水分の水と、その水で育まれた米の恵み」で、 一人でも多くの人に喜びを広げること。水分テロワールの実現です。平成29年新酒から、商品ラインを一新する廣喜に、どうぞご期待ください。