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にかほ市/「北限のいちじく」を甘露煮で食す

北限のいちじくを追う。


秋田県にかほ市大竹地区は、経営栽培のいちじくの北限と言われています。もともと、いちじくはアラビア南部が原産地のクワ科イチジク属の植物。世界でも日本でも、基本的には温暖な地域でよく育つとされている果物です。ですから「北限の」という冠をつけたいちじくには、どこか寒さに耐えてなお踏んばるようないじらしささえ感じさせるような響きがあります。

いちじくは、もともと母さんがたの小遣い稼ぎだったと地元の人々は語ります。にかほ市は沿岸部に位置するため、秋田県のなかでは雪が少なく、比較的暖かい地域であることもあり、庭木として植えられていたいちじくの生育がよかったことから、行商がやってきて、庭のいちじくを買っていった時代があったそうです。1960年代から大竹地区ではいちじくの生産を本格化。現在では、約30ヘクタールで20~30トンを生産し、秋田県の一大産地に。秋田県内の約9割のいちじくを、ここ大竹の約40戸の農家が担っているといいます。

8月のいちじくの様子。暑い時期は水やりも大変なのだとか。ここから約1ヶ月で完熟する。

山もある、海もある。
大竹の地形といちじく

にかほ市は東北一の独立峰、鳥海山(標高2,230メートル)が長く裾野をひき、日本海の波が寄せる、秋田県随一の温暖な地域です。平地に比べると少し標高が高いにかほ市大竹地区は寒暖の差があり、朝露が瑞々しい立地にあります。
いちじくには多数の品種がありますが、今、大竹地区で生産されているいちじくは、明治初年にフランスから持ち込まれた寒さに強いホワイトゼノアという品種。糖度が高い果肉は柔らかく、加熱加工にも向いています。

「北限のいちじく」として秋田県にかほ市で育てられている主な品種「ホワイトゼノア」。生食用のいちじくに比べると熟しても色が紫にならず、青いままのことから「白いちじく」と呼ばれることもあるそうです。

家庭で作られているいちじくの甘露煮。主にこうして瓶に詰めて保存されています。ちょっとした贈り物などにも重宝。

秋田県民はいちじくを甘く煮て食べるのが大好き

試しに生のいちじくを秋田県民に出してみてください。「え、いちじくって生で食べられるの?」と怪訝な顔をされる確率がかなり高いでしょう。なぜなら、秋田県民にとっていちじくは、甘露煮にして食べるものだから。秋田県のスーパーでは「加工用いちじく」「いちじく(加熱用)」というラベルで販売されるのが一般的です。「北限のいちじく」も、主に加工用としてその約9割がJA系統に出荷され、そのほぼすべてを県内市場で流通・消費してしまいます。

そもそも日本で栽培されているいちじくの品種は、「蓬莱柿(ほうらいし)」「桝井(ますい)ドーフィン」の2品種がほぼ独占状態。いずれも生食用の品種で、それゆえ全国的にはいちじくといえば「短い旬を生で楽しむ果物」という存在でしょう。それに対し、秋田はいちじくにとっての北限。秋も深まると一気に寒さが強くなるため、いちじくは完熟できずに木の上で未熟なまま、硬く、甘みも少ない状態で残ってしまうのだそうです。そんないちじくを眺めながら「何とかしてあれを食べられないものか……」と考えた人がいたのでは。そこで甘露煮という手法をひらめいた人がいたということなのでしょうか。秋田県民の保存食にかける情熱と、知恵と食欲には脱帽ですが、なんといってもいちじくの甘露煮はいちじくの北限だからこそ生まれた食文化であるということは断言できそうです。

ちなみにユカリロ編集部調べでは、いちじくの甘露煮を食べるのは東北地方の中でも秋田、山形、宮城など一部の地域です。岩手には「甘露煮は食べます」という人もいれば「いちじく自体食べたことがない」という人もいて、これに関してはもう少し調査が必要そうです。

いちじくの風味と甘酸っぱさ、ガッツリとした甘みが特徴のいちじくの甘露煮。ジャムをイメージしてもらうとわかりやすいかもしれません。お茶請けにはもちろん、ヨーグルトに入れたり、バタートーストにサンドしたりしてもおいしいと地元の方々。


玲さんに聞く

佐藤勘六商店の甘露煮の作り方

「北限のいちじく」ならではのいちじくの甘露煮。にかほ市大竹地区でこの甘露煮を売り出した立役者、佐藤勘六商店の社長の佐藤玲さんに、甘露煮の作り方を聞きました。

佐藤勘六商店の佐藤玲さん。にかほ市をいちじくの産地として盛り上げる活動をしている。「産地は自然と『なる』んじゃなくて、自分たちでも動いて産地に『する』んです」と熱く語る。

 

1 収穫

2 勘六商店へ運び込む(写真提供:佐藤勘六商店 佐藤玲)

3 新鮮なうちにヘタを落とす(写真提供:佐藤勘六商店 佐藤玲)

4 直径40センチメートルの専用の和釜で《ゆで洗い》。ゆで洗いが終わる頃には「湯色はピンクに染まって少しとろみがかり、いちじくそのものの香りと甘みも出た露になるんです。われわれはこれを『一の露』と呼んでいます」と玲さん。「一の露」はその後の工程で甘みの調整と香り付けに使用する。(写真提供:佐藤勘六商店 佐藤玲)

5 砂糖と水あめを加えて煮含める(写真提供:佐藤勘六商店 佐藤玲)

6 袋詰めも手作業


7 出荷

いちじくの甘露煮は、今日もがっつり、甘い。

秋になると家々からいちじくを煮る甘い香りが漂ってきます。ふっくらと仕上げるコツは、一度に大量の砂糖をいれずに、数日かけてゆっくり煮て味を少しずつ含ませることだそう。一気に砂糖を加えてしまうと浸透圧でしわしわになり、味も入っていかないのです。一口に「砂糖で煮る」といっても、自然の法則に従うところに、台所仕事の妙味があるわけです。

使用する砂糖も上白糖、グラニュー糖、ザラメ、てんさい糖、水飴などさまざまですが、共通するのはやはり、とても甘いこと。もともと甘いいちじくにたっぷりの砂糖を加えて煮るわけですから、推して知るべしですが、地元の方々に聞くと口々にこう言います。

「差し上げた先で悪くなったら困るじゃない。砂糖を控えると保存がきかなくなるから、冷凍庫に入れないといけないんだけど、差し上げた先で冷凍庫がいっぱいだったら困るでしょ。だから差し上げる分はしっかり砂糖を効かせて、とにかく持つようにするの」と……。甘露煮の甘さはつまり、どんな場所に置かれても大丈夫なように、いつ食べても大丈夫なように、安心して食べられるための、優しさでもあるのでした。

使う砂糖や作り方によってこれほど見た目も違う。

補足情報
「北限のいちじく」を産地として盛り上げるマルシェイベント「いちじくいち」が2018.10/6 – 7の2日間開催されます。生産者による生いちじくの販売、全国の人気飲食店や物販店によるマーケット、ワークショップやトークイベントなど盛りだくさん!http://1jiku1.jp/

文:三谷 葵
写真:高橋 希

special thanks to : 佐藤勘六商店

this article from yukariRo

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yukariRoは、漢字にすると「縁路」。ご縁でつながった人たちに取材し、当たり前すぎて「ふつう」のワケを調べ、その土地ならではのおもしろさを追うリトルプレスです。その土地らしい理由、人の性格、クセや習慣、自然、歴史、ほんの偶然……。何が出てくるかはわからないけど、出てくる何かがおもしろい。そういうおもしろさを求めて、自分たちの住んでいる町を取材しています。

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WRITER / EDITOR
三谷 葵

1981年長野県生まれ。編集者・ライター。中央大学大学院総合政策研究科修了。新潮社「考える人」アノニマ・スタジオを経て、2013年3月より秋田県在住。株式会社See Visionsで編集者・ライターとして活動するかたわら、リトルプレス「yukariRo」をカメラマンの高橋希と二人で立ち上げる。一度ハマるとしつこいタイプ。

PHOTOGRAPHER
高橋 希

1974年秋田県生まれ。明治大学文学部在学中、音楽冊子『SPYS』の制作にかかわることで写真に興味を持つ。卒業後、写真家・河村悦生氏に師事し独立。フリーランスのカメラマンとして活動していたが、2013年4月に秋田へ戻る。リトルプレス「yukariRo」のほか、アートイベント「オジフェス」を4回実施。“ないものは作る”がモットーの猪突猛進型。
https://ozimoncamera.tumblr.com/

PRODUCT.
いちじくの甘露煮

獲れたてのいちじくのヘタを一つ一つ手作業で取り、湯で洗うように丁寧に扱って甘露煮に仕上げていく工程は、驚くほど一般の家庭と変わらない。秋に獲れたものをすべてシーズンのうちに仕込み、保存。出荷時に「一の露(記事参照)」を加え、糖度を調整して、程よい甘さにして出荷する。少しでも割れがあるものははじきながら、一粒一粒を手作業で袋詰めする。象潟の道の駅「ねむの丘」ではこの甘露煮が練りこまれた「いちじくソフト」を食べることができる。
(写真提供:佐藤勘六商店佐藤玲)

SPOT.
佐藤勘六商店

大竹地区でこの甘露煮を売り出した立役者。「いちじくの甘露煮などを製造・販売するようになったのは私の祖母の代から。酒屋としてはもっと古くて、私で4代目です」と語るのは、社長の佐藤玲さん。秋の収穫期には近隣の契約生産者からたくさんのいちじくが運び込まれ、1年分の仕込みに大忙しとなる作業場の隣には、秋田県内を中心とした日本酒がずらり。そちらの品揃えも圧巻で、生産者の紹介や日本酒選びのための手書きPOPなど、商品の魅力を伝えるための工夫が凝らされている。毎年10月にはいちじくの産地を盛り上げるイベント「いちじくいち(http://1jiku1.jp/)」を開催している。

秋田県にかほ市大竹下後26
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